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前回の記事では、LTV(顧客生涯価値)向上の鍵は、サイト全体の平均値(点)を見るのではなく、ユーザー一人ひとりの行動を時系列(線)で深く理解する「プロダクト分析」にあることを解説しました。
しかし、実際の現場ではどうでしょうか。
アクセス解析ツールを見て「カートページでの離脱が多い」という事実は分かっても、「なぜそこで離脱しているのか?」という原因までは突き止められないことが多々あります。
原因が分からなければ、打てる施策は「推測」の域を出ません。「ボタンの色を変えてみよう」「とりあえずクーポンを出そう」。こうした手探りの改善は、時にコストの浪費に終わってしまいます。
本記事では、そのユーザー行動の"なぜ?"を解き明かし、確実な次の一手を見つけるために、プロダクト分析ツール「Amplitude(アンプリチュード)」が持つ3つの主要な分析機能を、ECサイトの具体的なシーンを例にご紹介します。
【①ファネル分析】顧客がつまずく「瞬間」を特定し、UI/UXを改善する
マーケターがまず知るべきは、「ユーザーがどこで熱量を失ったか」です。
ファネル分析は、商品閲覧からカート追加、購入完了といった一連のプロセスにおいて、どのステップでユーザーが離脱したかを可視化します。
一般的な分析との違い
一般的なツールでも「離脱率」の数字は出せますが、Amplitudeの真骨頂はその「深掘り」にあります。
例えば、ECサイトで「購入手続き画面」から「購入完了」への遷移率が急激に落ち込んでいる箇所が見つかったとします。Amplitudeでは、そこで離脱したユーザーだけをグループ化し、彼らの行動履歴を瞬時に分析することができます。

分析の結果、「離脱者の多くが特定のOSを使っていた」ことや、「決済直前に『送料確認』のリンクを何度も往復していた」といった具体的な行動が浮き彫りになります。
ここまで分かれば、対策は明確です。特定のOSでのバグ修正や、送料表示のUI改善など、離脱理由に直結した「外科手術」のような的確な改善が可能になるのです。
【②リテンション分析】顧客がファンになる「体験」を発見し、LTVを最大化する
新規獲得コスト(CPA)が高騰する中、既存顧客にいかに長く使い続けてもらうか(リテンション)は、ビジネスの生命線です。
リテンション分析は、ユーザーがサービス利用開始後、時間の経過と共にどれくらい定着しているかを可視化する機能ですが、真の価値は「定着した人」と「離脱した人」の違いを見つけることにあります。
「マジックナンバー」の発見
あるECサイトの事例を見てみましょう。
「初回購入から3ヶ月以上継続して購入している優良顧客」の行動を分析したところ、彼らの多くには共通点がありました。それは、「初回購入から3日以内にサイト内の『お気に入り機能』を利用している」という行動パターンです。
これは、単なる相関関係以上の意味を持ちます。「お気に入り機能」を使うという体験こそが、そのサービスへの愛着を深める「きっかけ(マジックナンバー)」だったのです。

この発見があれば、初回購入直後のユーザーに対してお気に入り登録を促すチュートリアルを表示するなど、ユーザーを「ファン」へと育てるための再現性の高い施策を打てるようになります。
【③コホート分析】施策が「本当に効いたのか」を正確に測定する
「先月のキャンペーンで売上が跳ねた!」と喜んだのも束の間、翌月には反動で売上が落ち込む。このような経験はないでしょうか。
コホート分析を使えば、施策が中長期的なLTVに貢献したかどうかを冷静に評価できます。
質の高いユーザーを獲得できたか?
コホートとは「共通の属性を持つ集団」を意味します。例えば、「4月の送料無料キャンペーンで獲得した新規顧客(コホートA)」と「5月の通常期に獲得した新規顧客(コホートB)」という2つのグループを定義し、その後のリピート率を比較してみましょう。

もし、コホートAのリピート率がコホートBに比べて著しく低ければ、どう判断すべきでしょうか。
それは、「4月のキャンペーンは、一時的な売上は作ったが、定着しない『質の低いユーザー』ばかりを集めてしまった」ということを意味します。
目先のコンバージョン数だけに惑わされず、施策の質を「LTV」という長期的な視点で正しく評価する。それがコホート分析の役割です。
まとめ:3つの分析機能で「脱・経験則」へ
今回ご紹介したAmplitudeの3つの基本機能を整理します。
これらを活用することで、経験則や勘に頼っていた意思決定を、確かな「根拠」に基づいたものへと変えることができます。
| 分析機能名 | 解決する「問い」 | わかること(インサイト) | 具体的なアクション例 |
| ① ファネル分析 | どこでユーザーが消えたのか? | 離脱のボトルネック箇所と、その直前の行動 | 特定OSのエラー改修、入力フォームの項目削減 |
| ② リテンション分析 | なぜ使い続けてくれるのか? | 優良顧客が共通して行っている「マジックナンバー(定着の鍵となる行動)」 | 初回ユーザーへの「お気に入り機能」利用促進チュートリアル |
| ③ コホート分析 | 本当にその施策は効いたのか? | キャンペーンや施策ごとの「ユーザーの質(LTV)」の違い | キャンペーン内容の見直し(ロイヤリティが高い顧客にターゲットを変更する) |
次回のテーマは「アクションプラン」
いかがでしたか?分析で「課題」と「原因」が見えたら、次はいよいよ「実行」です。
次回の最終回記事では、これらの分析から得られたインサイトを、具体的にどのようなアクションプランに落とし込み、PDCAサイクルを回していくのか。 ECサイトの現場を想定した実践的なシナリオをご紹介します。
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